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外出機会を増やし、生活範囲を広げる電動車いす

外出機会を増やし、生活範囲を広げる電動車いす

 電動車いすメーカーなどで構成される電動車いす安全普及協会によれば、2013年時点での電動車いすの累計出荷台数は63万台を超えている。介護保険のレンタル対象品目でもある電動車いすは、「高齢者の足」としても利用され普及が進む一方で、重大事故の発生も報じられている。日本シーティング・コンサルタント協会理事長の木之瀬隆氏による「電動車いすの適切な選び方、安全な使用方法」についての解説や各メーカーの最新製品などをまとめた。

木之瀬隆(きのせ たかし)

木之瀬隆(きのせ たかし)

作業療法士。中央鉄道病院、東京都立保健科学大学などに勤務したのち、2005年首都大学東京准教授に就任。08年日本医療科学大学教授。09年より現職。現在はシーティング研究所代表取締役も務める。

わずかな指の力でも思い通りに移動できる

 ――電動車いすとはどのようなものですか。

 木之瀬 電動車いすは、電動で車輪を駆動させる車いすです。上肢の力が低下し、手動の車いすを漕ぐのが難しい人でも、電動車いすならレバーを指で操作して移動することが可能です。心身機能の低下とともに縮小してしまいがちな高齢者の生活範囲を広げることもできます。

 屋外の利用に向いているのも電動車いすの特徴といえます。さまざまなバリアがある屋外を長時間、高齢者が手動車いすを漕ぎ続けるのは体力の消耗が激しいうえ、無理をすると側彎(そくわん)や拘縮、腱鞘炎などの二次障害を引き起こすこともあるためです。

 電動車いすにはさまざまな種類がありますが、大きくは自分で操作する自操用と介助者が操作する介助用とに分けられます。特に自操用電動車いすは、身体機能が低下しても、利用者が自由に移動でき、生活範囲を広げてくれる、まさしく自立支援のための福祉用具といえます。

 ジョイステッィクレバーで操作を行う「標準型電動車いす」は、レバーを操作するための手指の力が残っている人が対象です。手動車いすを漕ぐだけの上肢の力がない人も利用できる点が特徴です。

 ハンドルで操作する「ハンドル型電動車いす」は電動カートとも呼ばれ、普段は自立歩行が可能な人が、少し遠出をするときに利用します。したがって、他の電動車いすと比べると、軽度の人が利用対象となるでしょう。いつもより離れたスーパーに買い物に出かけたり、知人を訪ねたりと、利用者の足となって活動範囲を広げてくれます。

 また自操用電動車いすの中には、手動車いすに電動駆動装置を後付けできる「簡易型電動車いす」もあります。電動と手動の切り替えが可能で、利用者の体調や環境に応じて使い分けることができます。状態変化の激しいパーキンソン病の人などにも有効な特徴です。ジョイステッィクレバーで操作するタイプやハンドリムを漕ぐ力をアシストしてくれるタイプなどがあります。残存能力に応じて、選び分けるとよいでしょう。

導入前には試乗で操作能力を確認

 ――電動車いすを選ぶ際の注意点はどこですか。

 木之瀬 自操用電動車いすの場合は、本人が操作に支障がない心身機能を備えているかをまず確認する必要があります。屋外での使用が想定される電動車いすでは、操作者に十分な判断力や注意力が備わっていなければ、重大な事故に繋がるおそれもあるからです。

 導入前には試乗を行い、本人の操作能力や実際に利用するルートの環境を入念にチェックしてください。電動車いすの性能を把握し、乗り越えられる段差か、安全に登ることができる坂かといった判断が行える能力が必要です。

 また操作面だけでなく、利用中に姿勢が崩れないか、移乗のしやすさといった視点も忘れてはならないポイントです。利用者の体の大きさにあった車いすを選び、利用者の座位能力に応じて、各パーツを調整できる「モジュラー型」や適宜姿勢を変えられる「ティルト・リクライニング型」といったタイプも検討する必要があります。福祉用具事業者と連携して、本人がより安全で快適に使える機種を選定しましょう。

「電動車いす=危険」は誤った認識

 ――電動車いすの利用者が交通事故に遭うニュースも報じられています。防止策、利用上の留意点を教えてください。

 木之瀬 繰り返しになりますが、まず導入前に利用者の操作能力や判断力をしっかりと見極めることがなにより重要です。特別な免許などを必要としない電動車いすですが、適切な操作を習得したうえで、利用を開始するようにしてください。また充電忘れがないよう、利用者に注意を呼び掛けましょう。そのほか福祉用具事業者を通じて、タイヤの摩耗や空気圧調整、バッテリーの消耗、ブレーキ、ランプなどの定期的な確認も必要となります。

 利用者に関わるケアマネジャーや家族の中には、「電動車いす=危険」といったイメージをもつ人もいますが、決してそうではありません。利用者の外出機会を増やし、行動範囲を広げる電動車いすは、自立支援にとても有効な福祉用具です。生活が活動的になると、当然リスクが伴いますが、これまで挙げた注意点をしっかりと守れば、十分リスクを抑えることができるでしょう。

 福祉用具の展示会などでは、各メーカーなどから多様な電動車いすが出品されています。利用者だけでなく、ケアマネジャーや介護職の人にも、実際に見て体験してもらいたいです。上限速度を細かく設定できたり、コンピュータを使って個別に走行性を設定できるなど、安全性に配慮された機能が充実していて、「電動車いす=危険」といったイメージはきっと変わると思います。


(シルバー産業新聞2015年2月10日号)

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