千田透の時代を読む視点

訪問介護の基本報酬引き下げ、地域包括ケアの推進に水を差す

1月22日に開かれた社会保障審議会介護給付費分科会で、次期介護報酬改定での報酬単価が明らかになった。

  全体の改定率はプラス1.59%と、臨時の報酬改定を除けば、過去2番目に高い水準の改定率になっているなどと報道されているが、そのうちの0.98%分は、5月末まで補正予算で実施される、介護職員1人あたり6000円相当の処遇改善策が介護報酬に移行してきた際の財源に充てられるため、実質的な改定率は1.59%から0.98%を差し引いたプラス0.61%ということになる。

  この0.61%という数字は、前回改定の0.7%を下回る数字になっており、こちらを原資に、コロナや物価高騰などで影響を受けた経営の改善を行っていかなければならず、実際には、事業者の方々にとって厳しい改定となっていることがご理解いただけるであろう。
 そうした中で、訪問介護の基本報酬が、改定前より引き下げになったことが、介護現場に大きな衝撃を与えている。具体的には、身体介護の「20分以上30分未満」が、現行の250単位から244単位(2.4%減)、生活援助の「45分以上」が225単位から220単位(2.2%減)などに改められている。

  この理由について、厚生労働省は「訪問介護は、処遇改善加算を14.5%から最大24.5%まで取得できるように設定している」と、他のサービスよりも、高い加算率に設定している点を挙げ、処遇改善加算を取得することで、介護報酬の引き下げ分をカバーできるとしている。
  ただ、処遇改善加算については、小規模な事業所ほど上位区分を算定できていない実態や、加算の用途が処遇改善に限定されていることなどを考えると、訪問介護事業全体の経営改善にどこまで結びつくかは不透明だ。

  訪問介護の基本報酬が引き下げとなった背景には、介護事業経営実態調査で、訪問介護の収支差率が7.8%と、全サービスの平均(2.4%)を大きく上回っていたことがあるが、データを詳しく見ると、前年度の調査と収入はほぼ変わっていない中で、職員の人件費などの支出が減少した結果、利益率が高くなっていることが読み取れる。つまり、訪問介護の経営が安定しているのではなく、人材確保が困難な中、人が集まらずに人件費が減少した結果、利益率が高くなるという構図になっている。実際には厳しい経営状況であると認識すべきであり、事実、昨年の訪問介護事業者の倒産件数は67件で、過去最多を記録している。

  言うまでもなく、訪問介護の最大の問題はヘルパー不足であり、その問題を解決するには、コロナや物価高騰の影響を受けている訪問介護事業の経営改善を図り、職場環境を整え、処遇改善や生産性向上に取り組む“体力”を付けさせることである。
在宅介護を推し進めていく上で、訪問介護サービスの充実は不可欠であり、今回の基本報酬の引き下げが、地域包括ケアの推進に水を差す結果になるのではないかと危惧している。
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