介護保険と在宅介護のゆくえ

介護保険と在宅介護のゆくえ 連載49

介護保険と在宅介護のゆくえ 連載49

2015年の介護保険制度改正で、要支援のサービス利用者の85%が利用している「予防訪問介護」と「予防通所介護」の市町村事業への完全移行が3年以内に実施されることになり、現在進行中である。その目的は要支援認定者を減らし、介護保険を中・重度中心(要介護3以上)に絞り、給付額を削減することにある。その掛け声が「自立支援」であり、介護保険の共助からボランティア等による互助へ担い手を移す(多様化)ことである。

1. 介護予防事業失敗の教訓は何か

 厚生労働省は03年に介護保険法を改正し「介護予防事業」に取り組んだ。介護保険の対象を「要介護認定者」から全ての65歳以上に広げ、「介護予防」に資金を投入すれば「要介護認定者」が減らせると計算したのである。しかし、65歳以上人口の5%を予定した予防が6年かけても0.8%しか参加せず、440億円(11年度)も投入しながら、要介護認定者は増え続けたのである。しかし、今回の介護予防・日常生活支援総合事業はその二の舞になりかねない危険をはらんでいる。

2. 要介護認定をしないでサービス提供は危険

 基本チェックリストは介護予防で2,975万人の高齢者の56%が実施、回収率も3分の2であったが、予防に結びついていない。そのチェックリストが再度登場し、「要介護認定し」が国のガイドラインである。しかし、これは介護保険の根幹である主治医の関わりを排除し、障害区分や認知症自立度も無視した事業対象決定をするものである。

 「週1回以上外出する」に「いいえ」と回答すれば「事業対象者」になり、訪問・通所業を受けることになる。「生活支援」で高血圧や糖尿病、アレルギーや薬との関係で禁忌の料理をして悪化させたり、通所でメニエルや心不全、骨粗鬆症で悪化や骨折させる危険がないか、認知症の判定がチェックリストでできるのだろうか。要支援のサービス受給者115万人の7割が80歳以上である。(厚生労働省、16年1月審査分)であり、耳が遠いなど対話の限界もある。

3. 生活支援は基準を待たない「なんでもアリ」は危険

 厚生労働省は緩和したサービスは無資格者で良しとして、13時間の研修カリキュラムを公表しているが、大切なことは「生活援助」の基準の明確化である。長寿社会文化協会でNPO訪問介護事業をしている6団体にヒアリングしたところでは、「生活援助ほど苦情が多く、やること、できることの明確化が必要」の意見が多く出された。介護保険の財源を使ったサービスであり、内容や時間の基本を明確にしないとトラブルが絶えない。認知症や妄想、他の障害を把握しないで支援はミスマッチの危険がある。

4. 専門職が管理するシステムのない生活支援は危険

 訪問介護では主治医の意見書、訪問調査、他職種の意見を聞き、介護者や本人の意向を聞き、ケアプランの目標に合わせた個別支援が行われる。トイレの汚れから排泄状態や心身機能を知り、冷蔵庫から食生活を把握し、薬の飲み忘れやアルコール依存、脱水や転倒の危険など「生活援助ほど利用者のアセスメントが大切」である。このサービス提供責任者の役割や情報共有、記録などの介護専門職不在の生活支援は課題の発見漏れによる悪化や事故に繋がる危険がある。

5. 互助は自己責任の助け合いで、制度外しの代替ではない

 介護保険制度の隙間を地域資源や近隣の助け合い、ボランティアや商店街などが支えることは大切である。しかし、これらは介護保険制度の狭間を支えるものであり、保険制度の代替えではない。制度があり、地域があり、家族や友人があり、専門職があり、相互に役割分担をして、協働するのであり、その要がケアマネジャーである。ケアマネジャーを外し、給付管理がされれば良いというのでは、個別性がある利用者の心身の虚弱や介護や支援が必要な高齢者にそぐわない介護予防・日常生活支援総合事業である。

6 市町村は住民、要支援者の実態を十分につかみ対応しよう

 今回の総合事業では市町村の役割が重要なことは言うまでもない。財源論だけの国の言いなりになると、困るのは地域の高齢者や家族である。形式を揃えることに満足することなく、「行政」が主人公ではない、住民が主人公である。どうすれば「住民にとり」「高齢者にとり」より安心できる高齢期を過ごす場になるのか。もっと実態を知り、地域を知り、より良くする工夫にこそ汗を流してほしい。

(シルバー産業新聞2016年8月10日号)
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