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生き活きケア(76)小規模多機能「共生ホーム よかあんべ」

生き活きケア(76)小規模多機能「共生ホーム よかあんべ」

 鹿児島県姶良(あいら)市にある小規模多機能型居宅介護事業所「共生ホーム よかあんべ」。よかあんべとは、「いい塩梅」「心地よい」といった意味で用いられる鹿児島の方言だ。その名の通り、利用者、スタッフ同士、そして地域とも「ちょうどいい関係」を築くため、「日々、勉強中」だと管理者の苙口(おろぐち)淳さんは話す。

地域住民から遠巻きにみられていた開設直後

家庭的な雰囲気の共生ホーム「よかあんべ」

家庭的な雰囲気の共生ホーム「よかあんべ」

 「よかあんべ」は2012年度まで宿泊付きのデイサービスだったが、24時間体制で利用者個々のニーズに、より柔軟に対応するべく、今年4月に小規模多機能事業所へと移行した。5年前に開設した当初、地域住民は事業所の存在を気にしながらも、遠巻きにみている様子だったという。苙口さんは「住民の方からは『なにをするところだろう』『お年寄りを集めて何かやっているらしい』といった反応でした」と笑いながら当時を振り返る。

 元々、家族と同居する認知症高齢者が多い地域だったため、在宅で暮らし続けたいという高齢者と家族のニーズに応えることで、信頼を得ながら、地域に少しずつ根付いてきた。「最近になって、ようやく自治会の回覧に広報誌をいれてもらえるようになりました」と苦笑いする。

 地域密着型サービスに移行したため、今後は自治会長らをメンバーに加えた運営推進会議を定期的に開催することとなっている。苙口さんは「事業所の話題だけでなく、地域の課題などについても膝を突き合わせ、意見交換したい」と意気込んでいる。

 同事業所は、高齢者介護だけでなく、小学生の送迎ガイドや「こども110番の家」など地域ボランティアの活動にも意欲的に取り組む。また小学生の送り迎えには、利用者を連れていくこともある。地域の子供と接することが、利用者にも良い影響を与えているのだという。アクティビティなどは、事業所内で完結してしまうものが多いが、苙口さんは「地域の中に面白いこと、楽しいことは転がっています。それを活用しない手はない」と指摘する。
地域の小学生の送迎に利用者を 連れていくこともある

地域の小学生の送迎に利用者を 連れていくこともある

利用者が存在感を発揮できる場所

 現在、同事業所の登録利用者は14人で、平均要介護度は3程度。前身だったデイサービス利用者全員が同事業所をそのまま継続して利用している。よかあんべでは、「その人の存在感が最後までそこにある暮らしを支援する」をモットーの一つに掲げる。

 以前、独居で80代女性の利用者Aさんが、うつ病を発症し、妄想から「誰かに見張られている」「悪いことをしたから捕まってしまう」などと家族に訴えるようになった。以前は近所づきあいも良好だったAさんだったが、次第に奇声を発するなど症状は重くなり、家族は精神病院へ入院させることも検討し始めていたという。

 それでも、住み続けた家で暮らしたいというAさんの希望で、「よかあんべ」の利用を続けたが、暴れまわり、送迎の車に乗せるだけでひと苦労だった。「スタッフの間にも、もう我々の手には負えない状態なのではないかといった諦めムードが漂っていました」と苙口さん。

 そんなAさんの様子が、ふとしたきっかけで一変した。「脳梗塞で入院していた別の女性利用者の方が、ご家族の意向で戻ってこられました。Aさんは、点滴に繋がれて寝ている、その方のお世話を始めたのです」(苙口さん)。

 「手を握ったり、よだれを拭いたり、汚れた入れ歯を洗ったりと、とても献身的にいたわっていました」。その頃、Aさんの奇声などはすっかりおさまっていたという。苙口さんは「目の前に、自分よりも困っている人がいて、何かしてあげたいという気持ちがAさんに湧いてきたようでした」と振り返る。介抱を通して、Aさんは以前の元気を取り戻していった。

 この一件で、持てる力を発揮することが、本人の活力に繋がると実感した苙口さん。「ただ単に介護を受けるだけでなく、それぞれが力や存在感を発揮できる『共生の場』を作っていきたい」と抱負を語った。

(シルバー産業新聞2013年6月10日号)