座談会

世界一の高齢社会・秋田を元気に(2) 市原利晃/半田道子/坂谷優美

世界一の高齢社会・秋田を元気に(2) 市原利晃/半田道子/坂谷優美

 高齢化率34.6%の秋田で、高齢者の生活に寄り添う三名。自宅を訪問し、専門スキルを生かしつつ、生活全体を見る仕事の魅力や難しさを語る。

ご本人の家だからこそ気づけること

 市原 皆さんは病院、薬局、美容室に勤め、そこから在宅へと、2つのフィールドを経験されています。それぞれのフィールドで、関わり方が違うと感じることはありますか?
 半田 調剤室の中で処方箋を見て調剤するのと、実際に患者さんの自宅へ伺うのとでは、入ってくる情報も支援の仕方も違います。店舗だと、薬がきちんと飲めているか確認するには限界があります。家族が「飲んでいる」と言っても、訪問してみると、薬が苦かったり、身体の一部に麻痺があって、複数の薬をひとまとめに包まないと飲めないなど、その人なりの事情を読み取ることができます。
 また、色んな病院でもらった薬が残っていると、医師へ報告しなくてはいけないのですが、それも、自宅へ行かないとわかりません。
 坂谷 薬をもらえないと不安だったり、寂しいという人もいると聞いたことがありますが、本当ですか?
 半田 そういった方もいます。10日分欲しいと言われて、自宅に行くとそれ以上の分量が残っているときとか。
 市原 私も、ある患者さんの自宅で、残っている薬を調べたら60万円分、なんてことがありました。ポリファーマシー(多剤投与)は大きな問題の一つです。
 市原 半田さんの「自宅に入ってこそ分かること」というのは、まさに在宅の核の部分だと思います。例えば、糖尿病の老夫婦2人暮らしで、入院中は血糖コントロールが良好だったのに、自宅に帰ると上手くいかなくなった。インスリン注射の仕方については看護師がしっかり指導しています。
 「やりたくないのかな?」と思って訪問時に話を聞くと、実は老眼で、インスリンの注入量を設定するダイヤルが読めず、できなかったという事実。最後まで看護師がお世話してくれる病院では、気づかないことなのかもしれません。
 坂谷 ご本人の家だからこそ、じっくりと向き合える、そういう良さがあると感じます。医療と違って、訪問美容はあまり馴染みがないサービスですので、初めて訪問すると皆さん「家から出られないなら、美容なんてわざわざやっても…」といった反応です。しかも、知らない人がハサミを振りかざしながら突然家にやってくる(笑)。髪を触られる、切られるのは、誰だって抵抗はありますよね。
 なので、最初は簡単なチークやネイルを試してもらいながらお話しして、少しでも「この人といると安心、楽しい」と感じてもらうように心がけています。髪形をちょっとおしゃれに整えたり、白髪を染めたりするだけで「少しだけ家の周りを散歩してみよう」という変化が見られることがあります。
 坂谷優美さん

 坂谷優美さん

(さかや・ゆみ)
美容師。秋田市生まれ。秋田工業高卒業後、ヘアビューティーカレッジを経て美容師免許取得し、市内ヘアサロンに勤務。2015年7 月「Holospace HARU」オープン。ヘルパー2 級の資格を取得し、訪問美容サービスを開始。

晴れやかな表情/家族の支援

 市原 高齢者ではないですが、がん末期で余命数カ月の人が、化粧をして髪を切った姿を見たことがあります。表情がとても良くなりますね。介護と美容は案外近いのかもしれません。どちらも、気持ちを豊かにできる。
 半田 私も母の介護をしているときに、定期的に美容師に来てもらっていました。確かに顔が変わり、車いすで外に行きたがるのです。美容の力って、すごいなと。それで私も、デイサービスに染髪用の洗面台や椅子を置いてみました。すると、不思議とご利用者が服装を気にするようになるのです。
 坂谷 デイサービスの前日に訪問美容を頼む女性のお客さんは多いです。旦那さん以外の男性がいる場に行く、というのが大きいみたいですよ。
 拒否がとても強く、髪の毛を洗うことも嫌がる認知症の方を訪問したこともあります。ご家族の皆さんも、手の施しようがない、といった様子でした。髪の毛は櫛が入らないほどになり、そのまま寝るので枕も変色します。身の回りが汚れていくと、きれいにすることへの関心も薄れてしまいます。
 でも、ピンクのネイルを塗ると、自分の手がいつもと違う、と認識している様子です。その結果、おむつの中に手を入れる癖が少なくなりました。介護で大変な思いをしているご家族にとっても、癒しになったのではと思います。
 市原 家族支援という視点も、在宅ではとても重要ですよね。
 医療では患者さんとご家族の希望が違うこともあります。特に「看取り」、つまり、亡くなる前の最後の時間をどこでどう過ごすかは大切です。これ、けっこう聞くタイミングが難しいのです。けれど、きちんと話しておかないと、いざ具合が悪くなった時に混乱します。そして、今まで自宅で一緒に暮らしてきたのに、最後だけ入院させて申し訳なかったと、ご家族が後悔してしまうのです。
 私の場合は、元気な人でも初回訪問のときに必ず確認します。また、がん末期の家族には「残された時間は数週間なので、覚悟してください」とはっきり伝えます。
 半田 それを口に出せる先生は、稀じゃないでしょうか。私の母も亡くなる前に入院し、「どうなるか分かりません」と先生に伝えられましたが、私には、「亡くなる可能性がある」というふうな捉え方ができなかったのです。それを考えると、できるだけはっきり言ってほしいとは思いますね。
 市原 そのぶん冷たいって言われますけど(笑)。なぜいきなりそんな話をするのか、とご家族に怒られたこともあります。おそらく、誰もが納得する最期というのは実現が難しいです。でも、事前に話し合うことで「理解」はしていただけるはずです。

(ねんりんピック新聞2017in秋田)

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