座談会

認知症を支える社会へ(3) 小島操/髙井隆一/石本淳也

認知症を支える社会へ(3) 小島操/髙井隆一/石本淳也

 11月11日の「介護の日」を記念して行われた特別座談会。認知症の方が増えていく時代の中で、どうすれば認知症の方が事故やトラブルに巻き込まれることなく、安心して地域の中で暮らしていけるのか。出席者それぞれの経験や考えを語り合ってもらいました。

企業の努力や理解が大事

 小島  ここからは、認知症の方ができるだけ事故やトラブルに巻き込まれないようにするにはどうしたらいいのかを考えていきたいと思います。
 私が担当する認知症の利用者も、駅の自動改札を通過して電車に乗ってしまうことがありました。その時、自動改札機にICカードではなく、銀行のキャッシュカードをかざし、改札で立ち往生していたそうです。そこに鉄道会社の方が来て、「銀行のカードではなく、ICカードじゃないと駄目です」と言われただけで、その方は改札を通過してしまいました。もし、駅の職員の方に認知症に関する知識があれば、改札を通過するのを止めてもらえたのではないかと思います。
 髙井  愛知県に豊橋鉄道という会社があって、社員全員が認知症サポーターの研修を受講されています。ですので、もし父の家が豊橋鉄道の前だったら、ひょっとしたら、事故に遭わずに済んだのではないかという気持ちは今もあります。
 私自身、父のことがあって、少しでも社会に恩返しをするような気持ちで、認知症で道に迷われているような方を見つけた場合、できるだけ声掛けをするようにしています。ただ、実際にやってみると、見ず知らずの人に話しかけるのは、なかなか難しいです。私の場合は、まず天気の話をして、そこで話が続くようであれば、「今日はどこにおでかけですか」と聞くことに決めています。その答えや反応を見て、認知症で迷われているかどうかの判断をしています。
 ただ、父の場合もそうでしたが、たとえ認知症でも1~2分くらいだと話を合わせ、うまく繕ってしまうところがあります。ですので、少し声掛けをしたくらいでは、認知症かどうかを判断できないこともあります。
 小島  夏なのに冬の服装だったり、名札を付けたりしていると分かりやすいこともありますが、そういう工夫をすることにも難しさがあります。でも、ちょっとおかしいなと思える方を見つけた場合に、気軽に声をかけることができる人が地域にいて欲しいなと思います。大人だけではなく、子どもについてもそうです。私は認知症のことについて、小学校から教育の中に入れて欲しいと思っています。
 髙井  最近だと小学生の子が認知症サポーターになったりしていますね。
 石本  認知症の人は、あと数年後に700万人を突破すると言われており、認知症の方が地域の中で暮らしておられるのが当たり前の世の中になります。それに合せて社会全体が、これまでの世の中の標準をシフトチェンジさせていく必要があります。
 例えば、今では視覚障害の人が駅のホームから転落しないように、点字ブロックは必ず設置されていますよね。同様に認知症の方が線路に迷い込まないような防護策も当たり前のように講じていく必要があるのではないでしょうか。少なくとも公共交通機関や、不特定多数の人を相手にする仕事だと、認知症サポーターの研修は必ず受けてもらいたいですね。
 髙井  私たちが裁判をしていた当時は、認知症サポーターは「100万人キャラバン」をスローガンにしていましたが、いまでは1200万人が目標です。そうした知識をもっていたり、身内に認知症の方がいたりすると、認知症に対する理解や対応も違ってきますよね。是非、多くの企業にそうした努力や理解を深めてもらいたいです。
 小島  介護が理由で離職される方も厚生労働省によると年間10万人いるといわれています。一般企業に務める多くの方も、親の介護が当たり前に必要になっていますので、企業の介護教育も大事です。
 石本  私の場合、仕事中にご近所の方から「お母さんを家で保護していますよ」と連絡が入ると、悪いと思いつつも、仕事を中断して母を迎えにいっていました。幸い、理解がある職場だったので許されましたが、介護に対する理解がない職場だと、そうしたことは難しいだろうと思います。介護の大変さをもっと社会全体で共有していくことが大切です。

大府市が認知症条例を制定

 髙井  私の住む大府市では、今度、「認知症に対する不安のないまちづくり推進条例」を制定する予定になっています。認知症になっても安心して暮らせるまちの実現を条例にするのは、全国的にも珍しいのではないでしょうか。市民や事業者、行政の役割などを定め、認知症に対する一歩進んだまちづくりに取組まれるようなので、私自身も一市民として期待しています。
 小島  条例までになると、みんなの意識もかわってきますね。
 石本  来年度には、介護保険の改正も控えていて、それに併せて新オレンジプランの推進が図られます。大府市を見習って、より具体的な認知症施策が各自治体で取り組まれることを期待したいですね。
 ちなみに私の住む熊本県も認知症に対する取組みを先進的に行っている自治体だと言われています。熊本の場合は、知事が自ら認知症サポーターになって、積極的に認知症サポーターの養成に取り組み、県民あたりの認知症サポーターの割合は日本一になっています。
 髙井  そうした街がどんどん増えていったら良いなと思いますね。父の事故の裁判で、約8年間いろいろなことがありましたが、今では社会を変える一つのきっかけになってくれたのではないかと思っています。
 小島  髙井さんのお父様は91歳の高齢であって、たとえ認知症を患っていても住み慣れたご自宅で過ごされていらっしゃいました。それはとても幸せなことだったのではないかと思います。今後、認知症であっても、最後までその人らしく暮らせる地域をつくっていくことが必要です。そのことに多くの方が関心を持つ社会になっていくことを期待したいと思います。
 本日はありがとうございました。

(了)


(介護の日しんぶん2017年11月11日)


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