座談会

特別対談「介護が必要になっても、自立支援を」(後編)いとうまい子・長倉寿子

特別対談「介護が必要になっても、自立支援を」(後編)いとうまい子・長倉寿子

 「予防の大切さを発信するメッセンジャーになりたい」と目を輝かせるいとうさん。現在はAIベンチャーの企業から研究員として招かれ、共同でロボット開発にも取り組まれている。厚生労働省で、福祉用具・住宅改修指導官、介護ロボット開発・普及推進室室長補佐を務める長倉寿子さんとともに、介護予防・健康づくりの重要性についてお話いただいた。

福祉用具が自分の世界を広げる

全国に 10 万カ所の 「通いの場」

――厚生労働省や自治体も、全国に住民主体の「通いの場」をつくり、介護予防などの取り組みを推進されていますよね。

 長倉 直接の担当ではありませんが、10万6000カ所を超える(2018年度時点)通いの場が全国にあり、それぞれ体操教室や茶話会、趣味活動、認知症予防など、介護予防にも繋がるさまざまな活動に取り組んでいます。ただ、行政が主導するのではなく、住民の主体的な活動であることが大切です。

 現職に就く前、作業療法士として、通いの場に関わったことがありますが、住民の方々の手でしっかりと運営されていることに、改めて地域の力というものを実感しました。

 いとう 私は名古屋市の出身ですが喫茶文化が有名です。お年寄りの方も、朝から喫茶店へ行って、昼まで毎日話し込むんですよ(笑) 実は愛知県の健康寿命って女性は全国トップ。男性も全国3位です。食べ物の味付けも濃いし、愛知県にあまり健康のイメージがないかもしれませんが、全国トップクラスの健康寿命を誇るのは喫茶文化が関係しているように感じます。喫茶店が通いの場になって、皆が元気でいられる。こうした文化や習慣って、地域でさまざまですから、それぞれの地域にふさわしい通いの場の形があるのでしょうね。
 
 長倉 そうだと思います。また地域それぞれの通いの場に医療専門職などが定期的に関わることができれば、生活機能の低下の兆候や原因を把握することで、健康づくりや介護予防の機能が高まります。また、通いの場が遠かったり、通いづらい場所だったりすると、足が遠のいてしまうかもしれませんから、身近な生活圏域にそうした場があることが望ましいです。

 いとう そうした場が身近になかったり、通うのが億劫になってしまう人にも、運動する機会を持ってもらいたいというのも、ロコピョンを作ろうと思った理由のひとつだったりします。自分で通いの場に行って、みんなと楽しめる人はいいですが、行けなかったり、あまり気が進まないという人も必ずいると思います。

 私自身も、実は出不精で一人好き。そうした人を置き去りしないためにも、ロボットが役立てるかなと思ったんです。ロボット相手なら気を遣いませんから。
 対談は遮蔽のアクリル板越しに行われました

対談は遮蔽のアクリル板越しに行われました

介護ロボット

介護現場と開発側のコーディネートが鍵

――なるほど。ロコピョンの開発はこれからも続けていかれるんでしょうか。

 いとう はい。国際ロボット展に大学ブースで出展して、そこでロコピョンの説明をしていたら、エクサウィザーズというAIベンチャー企業の会長に興味を持っていただいて、今はフェロー(研究員)として一緒にロボット開発に取り組ませてもらっています。まだこれからですが、例えば正しくスクワットができているかどうかを判断して、ガイドしてあげるのはAIの得意分野じゃないかなとか、あれこれ構想を膨らませています。
――ロボットといえば、 「介護ロボット」も以前から注目を集めていますね。

 長倉 深刻な介護人材不足を背景に、国も介護ロボットの活用促進を図っています。厚労省は2012年度に、経済産業省と連携して「ロボット技術の介護利用における重点分野」を策定しました。

 現在は移乗、移動、排泄、入浴、見守り・コミュニケーション、業務支援など6分野13項目を重点分野としています。主に企業のロボット開発は経済産業省が支援。われわれ厚労省の役割は、介護現場での実用化や普及です。

 例えば、介護現場のニーズと企業が持つシーズ (技術) のマッチングがその一つです。メーカーが漠然としたイメージで開発しても、なかなか現場で活用される製品を作るのは難しいので、介護現場と開発企業との間を取り持つ役が重要になります。

 いとう わかります。 私も、 試作のロボットを実際に使ってもらったり、現場に足を運んで丁寧にヒアリングをしました。また、エンジニアの方に形にしてもらうときにも、具体的に一つひとつ説明をしないとイメージとは違ったものが出来上がってしまうんです。

 長倉 まさにいとうさんのように、そうした現場の間に入るコーディネーター役を務めています。いとうさんの場合は、開発とコーディネートの両方を手掛けているからすごいですね。

 今年度は全国11カ所の相談窓口、6カ所のリビングラボを設置しました。相談や実証支援の取り組みで、介護ロボットの開発から普及までの一連の流れをさらに加速させるのが目的です。

介護が必要になっても自立支援を支える福祉用具

―― 一部の介護ロボットは介護保険の福祉用具貸与の対象にもなっています。

 長倉 アシスト付きの歩行器や自動排泄処理装置などがそうです。介護保険制度の福祉用具は貸与(レンタル)の仕組みを基本としています。その人の状態に合わせて、適宜変更できるのがメリットです。入浴や排泄関連など、レンタルに心理的に抵抗感があるものは購入物品の対象となります。

 いとう 福祉用具などを使って、自分でできることが広がるのはとても素晴らしいことです
よね。介護が必要になっても、できることが増えれば、自身の世界もまた広がると思います。

 長倉 今日は、いとうさんのロボット開発に取り組む姿勢にとても刺激を受けました。これから、さらなる活躍に期待しています。

 いとう 私もとても勉強になりました。今日学んだことも含めて、メッセンジャーとして予防の大切さをこれからも発信し続けていきたいと思います。

――お二人とも、本日はありがとうございました。(了)
 写真:長倉 寿子さん
(ながくら・ひさこ) 国立療養所近畿中央病院付属リハビリテーション学院作業療法学科卒業。作業療法士として、兵庫県社会福祉事業団玉津福祉センター付属中央病院(現・兵庫県立リハビリテーション中央病院)をはじめ、介護保険施設、在宅サービスなどで活躍。2011年から18年6月まで兵庫県作業療法士会会長も務めた。19年4月より現職。

(福祉用具の日しんぶん2020年)

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