座談会

「明るい介護」を発信したい 新田恵利/小林 毅/阿部充宏(後半)

「明るい介護」を発信したい 新田恵利/小林 毅/阿部充宏(後半)

 タレントの新田恵利さんは、今年6月に脳動脈瘤の手術を受けた。「寝たきり」の辛さを味わったことが、実母ひで子さん(87歳)の介護に生かされたという。厚生労働省の小林毅さん、ケアマネジャーで介護の未来代表の阿部充宏さんとともに、介護と向き合うためのポイントを語ってもらった。

自慢の車いすを使って一人でトイレに

 小林 介護保険では福祉用具のサービスもありますが、どのようなものを使っていますか。
 新田 介護ベッドやその上に敷くマットレス、ベッドテーブル、それから車いす、歩行器、スロープも介護保険でレンタルしています。歩行器は母の回復に合わせて、製品を選びなおしてもらっています。
 小林 状態の変化に応じて最適なものに取り換えることができるのも、介護保険の福祉用具貸与の長所ですね。費用負担も購入よりも小さくて済みます。
 新田 特に役に立っているのが車いすです。はじめは病院でみるような、いわゆる普通の車いすを借りていたんですけど、不器用なのか、本人はまっすぐこいでいるつもりなのになぜか右に傾いていってしまうんです。そこでケアマネジャーさんや福祉用具の専門相談員の方々と、ああでもないこうでもないといろいろ話し合って、何回かの変更を経て、ようやく今使っている車いすにたどり着きました。傾かずにまっすぐ走れるようになったおかげで、廊下を渡ってトイレまで一人でいけるようになりました。
 座り心地もよくてベッドの母と会話するときは私が座ることもあります(笑)。自慢の車いすですね。
 小林 車いすもそうですし、介護ベッドだったら起き上がりや立ち上がりをしやすくしたり、食事がしやすい姿勢を維持したり、介護者が腰をかがめず楽に介助できる。福祉用具を活用し、環境を整備することで自立支援や介護負担の軽減に繋がります。
 新田 実は国際福祉機器展(※東京ビッグサイトで毎年開催されるアジア最大の福祉機器展)にも行ったことがあります。高齢者・障がい者の方や介護する側にも優しい製品がたくさん展示されていたのですが、ふと思ったのは「これらはどこで買えるんだろう」ということでした。
 小林 なるほど。
 新田 必要に迫られていないのに、介護用品をチェックすることってまずありませんよね。私もいざ母が寝たきりになったとき、介護用品を買えるお店って全然頭に浮かんでこなくて。
 小林 介護実習・普及センターという施設があります。実際に福祉用具などが多数展示され、体験や相談もできます。ただ各都道府県に1カ所程度なので、行きにくい方もいらっしゃるでしょうし、それは今後の課題ですね。
 新田 そういう施設がもっと増えるといいですね。

ベッド用手すりで立ち上がる動作を支援

母の介護から生まれた食器

 阿部 ケアマネジャーからみても福祉用具はとても重要です。一方で、選択や使い方を誤ると、事故などに繋がるおそれもあるかと思います。新田さんは実際に福祉用具を使っていてヒヤッとした経験はありますか?
 新田 母が床のものをとろうと、介護ベッドの高さをリモコンで一番下まで低くして、なんとか掴んだものの、ベッドに上がれなくなってしまったことがありました。帰宅したら真っ暗な部屋にベッドのそばで丸まって寝ている母がいて本当にびっくりしました。本人は「ベッドに戻ろうとしたけど疲れたし、そのうち恵利が帰ってくるだろうからここにいたの」ってあっけらかんとしていましたけど(笑)。それ以前にも私の目の前で同じような使い方をして、その時は危ないよって注意したんですけど、留守のときにまたやってしまったんですね。
 小林 阿部さんもおっしゃっていた通り、福祉用具の事故は製品に起因するものより、誤った使い方などによるものが多いです。2012年4月から1年間の経過措置を経て、2013年4月からは、福祉用具専門相談員に、なぜこの人にこの用具なのかの理由や、使う際の留意点などを記す計画書の作成・交付が義務付けられました。この計画書なども活用しながら、福祉用具の安全な利用に繋げていただきたいと思います。
 新田 福祉用具といえば、実は私も介護用品を扱うカインドウェアという会社と一緒にシニアにも使いやすい食器を最近作らせてもらいました。母と食事をしていて、白いご飯が茶碗に残っているんですね。小さい頃、私はそれですごく母に怒られていたのになんでだって思って(笑)。でも母に残ってるよって教えると、「え?どこに?」ってきょとんとしているんです。
 白いお茶碗で残ったご飯が母には見えにくかったんですね。それまでは気に留めたこともありませんでした。内側に色が付いている茶碗を探したんですけどあまりなくて。あと普通のお茶碗だと母には大きすぎて扱いづらいのも気になっていました。
 そんなときにカインドウェアの会長とお話しする機会があって、茶碗のことを伝えたら、「それならうちでやりましょう」と言ってくれたんです。漆器で熱が伝わりにくかったり、軽くて割れにくいなど、使いやすい工夫がたくさん施されていて、母との暮らしで得た気づきが生きた食器ができました。
 小林 新田さんが作られた器のように、誰でも使えて誰にでも使いやすいものは共用品とも呼ばれます。ワンタッチ傘ってもともとは片マヒの方に使い勝手がよかったのですが、今は障がいの有無にかかわらず、便利だからみんなが使っていますよね。あれも共用品です。
 新田 そうだったんですね!あと介護用品で気になるのは、なかなかおしゃれなものが見つけにくいことです。
 阿部 杖なんかは花柄みたいな明るい柄のものも増えていますね。
 新田 母がデイサービスに向かうとき、洋服を出したら「恵利ちゃん、この服はもう2回もデイに来ていった」と言い出して、こっちからしたら「いや、3回目も着てくださいよ」って話なんですけど(笑)。でもそんな母を見てると、介護用品も今以上におしゃれなものが増えればいいなと思いますよね。

まっすぐ走れる車いすはひで子さんのお気に入り

自身も脳動脈瘤で手術 寝たきりの辛さ経験 

 小林 新田さんは介護をされながら、ご自身もつい最近大きな手術をされたそうですね。
 新田 はい。13年にテレビ番組の企画で脳ドックを受けたときに脳動脈瘤が見つかりました。今年の経過観察で腫瘍が1年前の倍ほどの大きさになっていて、即検査入院となりました。おかげ様で手術も成功し、すぐにお仕事に復帰することができました。太ももの付け根からカテーテルを挿入する手術で「寝たきり」も経験しました。10時間ほどでしたが、寝返りも打てなかったので本当に辛かったですね。
 阿部 辛い経験を経て介護生活のスタンスやお母様との接し方で変化はありましたか。
 新田 動けない辛さは身をもって知りましたね。それまでも辛いだろうとは思っていましたが、やはり想像でしたし。以前は母に八つ当たりされて言い合いになることもありましたけど、少し辛さがわかったので、最近は「機嫌悪いね。退散します」っていって逃げます(笑)。衝突しなくなったのは、余裕が出てきたからだと思います。
 余談ですけど、私が病院で寝たきりのときに、頼みこんで使わせてもらった枕がすごく良かったんです!動けない辛さが半減しました。あまりにいいものだからメーカーを控えて帰りました。今、母は寝たきりではないですが、もしまた悪くなったら、その時の枕を買ってあげたいと思います。
 小林 最近では、講演などでご自身の介護体験をお話しされていらっしゃるそうですね。皆さんの反応はいかがですか。
 新田 いま介護をされていない方はほとんど、将来の準備をされていませんね。私もそうでしたし、当然だと思います。でも話を聞いてもらって、今から少しずつ調べてみたいといった反応をいただきました。少しでもお役に立ったならうれしいですね。
 質疑応答もさせてもらったんですけど、ある男性からは義理の母親に何をしてあげたらいいかという質問をいただきました。家族だからできることはしてあげたい。でもどこまで踏み込んでいいかわからないとおっしゃられて。うちの場合ですと、母は男性でも兄におむつ替えられるのには抵抗しなかったんですよ。でもさすがに義理の息子に交換してもらうのは嫌ですよね。だから夫には声かけてあげてって頼んでいます。「お母さん元気?」とか「仕事行ってくるね」とか。それが母は一番喜ぶからって。
 新田 今年の夏に母も大分落ち着いてきたので、みんなでどこかに出かけようって夫が張り切って母を誘ったんですけど、「暑いから勘弁して」って返されて、見事に空振りしていました(笑)。
 講演する中で皆さんが知りたいのは本当に日常のことなんだなと気づきました。私は専門家じゃないので自身の経験や意見しか話せないですけれど、皆さんが少しでも前向きになれるよう、今後もこうした活動を続けていきたいです。
 小林 新田さんにはこれからも「明るく前向きな介護」を発信していただきたいと思います。本日はありがとうございました。

(了)

(福祉用具の日しんぶん2016年10月1日号)

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