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福祉用具「膝を支点とした立ち上がり・移乗」のススメ2015年10月 6日08時00分

「本人の安心安全、自立支援」と「介助者の負担軽減」を実現

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 佐賀大学医学部の松尾清美准教授は、膝を支点にした立位・移乗動作ができる福祉用具・機器の開発と、現場での取り組み普及を推進している。本人の安心安全と自立することによるQOL向上、さらには介助者の身体的負担軽減で有効であるため。松尾氏自身も学生時代の交通事故で車いす生活をおくることになったが、以降も様々な福祉用具・機器メーカーと共同で製品開発を続け、世に送り出してきた。研究・開発者と使用者の立場のものづくりは、メーカーや現場からの評価も高い。

 ――膝を支点にした自立・移乗の機器開発と普及を目指されていますが

 車いす生活者にとって、自立して身の回りのことができることや、できることを少しずつでも増やしていくことは、生活の質(QOL)向上に直結する。自身のこれまでの経験からしても間違いない。そのためには、福祉用具を選択して住宅改修を行って自分でできることを増やし、様々な生活場面への移乗動作などができるようにする必要がある。

 これまでも膝を支点にした移乗機器としてはスタンディングエイドや立位移動機などを開発してきたが、介護ベッドメーカー「プラッツ」(福岡県大野城市、福山明利社長)とのベッドの研究では、膝を支点にした立ち上がり機能や膝当て移乗の安全性を付加する目的で、自動ロック付ベッド用グリップ「ニーパロS」(特殊寝台付属品)も共同開発した。

 離床時にはベッドの昇降機能を使って高さを調整し、ベッド柵を兼ねるグリップを最適な角度にスイングさせ、柔らかいひざ当てパッドを支点にグリップを手元に引き寄せる要領で立ち上がる。車いすを横に置けば、腰を浮かせて移動し、移乗することができる。膝を支点にすれば、前方へ落ちるのを防止できるので安全性が高い。

 排泄や入浴の自立に関しても、トイレやポータブルトイレ、浴槽への移乗をする時、膝を支点に立ち上がりや移乗ができるように、矢崎化工(静岡市、矢崎敦彦社長)と据え置き型手すり「たちあっぷ ひざたっち」を開発した。据え置き型手すりに大型の膝当てクッションが付いたもので、トイレ内やポータブルトイレ、浴槽横に置いて使用する。

 このような膝を支点にした立位・移乗の実践は、介助する人にとっても横で軽く支える程度か、まったくの見守りだけで、安心安全な移乗介助ができる効果も見込める。

 ――介助負担の軽減や、腰痛予防にも効果的ですね

 膝を支点にした立ち上がりや移乗の有効性は、福祉展示会や勉強会などで介護職に啓発している。現場の意識改革も並行して進める必要があるからだ。

 これまでの介護職が正面に立って、抱きかかえる方法の介助法に比べて、介助者への負担がはるかに少なく、抱え落とすような事故もない。

 たとえば体重70㎏の被介護者が床に足を付けた状態で、抱きかかえで立ち上げる方法では、プッシュプルスケールで計測すると40㎏程度の力が必要だった人が、ベッドの高さを膝の高さから5㎝上げて膝を支点に立ち上がれば28㎏にまで軽減する。さらに膝から10㎝ベッドを上げると約17㎏まで軽減できる。運動学(重心移動)に基づいた非常に科学的な介助方法といえる。

 現在、少子高齢化の中で介護が必要となる人は増える一方で、支え手の確保が難しくなっている。介護人材を増やすのは難しくても、用具を現場に導入することはできる。

 ――自立した生活は介護機器によっても実現できるのですね

 その通り。介護ベッドの開発当初から「離床を促すためのベッド」を目指しつつ、その上で「睡眠時間8時間に関しては快適で安楽なベッド」を目指した。可能な限り離床して、その人らしい活動をするためのベッドであってほしいからだ。

 まずは安心安全、次に本人の自立支援、そして介護者の負担軽減や人的労働力の削減だ。社会保障改革の中で、サービスの削減なども言われ始めたが、そうであればこそ福祉用具・機器は積極活用すべきだ。本人にやる気、生きがいを持ってもらうことができれば、地域社会に参加する機会も増える。

 消費者であり、就業できれば納税者の立場になってもらうこともできるからだ。

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ひざを支点にすれば移乗も安全にできる

 

松尾清美(まつお きよみ)

1953年佐賀市生まれ。佐賀大学大学院医学系研究科・准教授。2級建築士。76年交通事故で第9胸髄を損傷し車いすの生活となる。以降、身体障害者の身体機能と生活方法の研究、日常生活機器や生活環境の設計研究など従事。03年佐賀大学医学部助教授就任。福祉機器開発での取得特許件数26件。1,450人を越える身体障害者の住環境を設計。

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