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能登半島地震 災害に向き合う施設 震度7・志賀町 震度6強・七尾市

能登半島地震 災害に向き合う施設 震度7・志賀町 震度6強・七尾市

 1月1日午後4時10分頃に発生したマグニチュード最大7.6の能登半島地震は、死者240人、安否不明者14人(輪島市、珠洲市)(2月1日現在)、全半壊家屋4万棟を超える甚大な被害をもたらした。大津波警報の発令で、七尾市にある能登福祉会には町民が150人押し寄せた。断水は、飲料、食事、トイレ、風呂の日常を壊している。BCP(事業継続計画)策定で初期対応がスムーズだった施設が多い。

役立ったBCP 地域住民150人避難 想定超える

 能登福祉会(七尾市)は特養「あっとほーむ若葉」など定員222人の施設サービスと在宅サービスを運営する。元日、大津波警報が出て、高台にある施設に地域住民150人が駆け上がってきた。椅子や毛布などあるものをすべて出した。災害時の地域の人々の受入れは、策定したBCPにあったが、「これほどの人数は想定していなかった」と統括事業部長の小山孝志さん。要援護者を受け入れる福祉避難所として市と協定を結び、そのための備蓄もあったが、「タンクの水も備蓄の食料もすぐ底をついた」。市からは一般避難所への移行をアナウンスしてほしいと要請された。
壊れた合併浄化槽の修理が進む (七尾市・能登福祉会)

壊れた合併浄化槽の修理が進む (七尾市・能登福祉会)

 能登福祉会ではBCPを4版まで見直してきた。部署ごとの研修会を予定していた矢先だった。国のBCP策定の義務化は職員の認識を一層高めることになった。発生時のメール共有や行政サイドのBCPなどで、課題も明らかになったと小山さんは言う。
想定外はあったが、 役職者がBCP 把握で初期対応がスムーズに(能登福祉会)

想定外はあったが、 役職者がBCP 把握で初期対応がスムーズに(能登福祉会)

館内暖房はなく、水は毎日300㎏タンク3缶に給水受ける

 特養「アイリス」(志賀町、全96人定員)は、断水とともに冷温水器が壊れて館内暖房ができなくなった。震度7の激しい揺れで壁や天井が落ち、床が隆起して亀裂が走った。けが人はなかったが、余震が続き、不安を訴える利用者が増えた。
天井落ち水浸し復旧めざす (志賀町・特養アイリス)

天井落ち水浸し復旧めざす (志賀町・特養アイリス)

 行政からは1人1日500mlの飲料水が提供されているほか、毎日300kgのタンク3缶に給水される。使わない風呂タブに給水車から水をためてもらい、洗濯機を回している。3人の職員が被災し家に戻れない生活が続いており、「今後も仕事を続けられるか心配」と本田剛施設長。
冷温水器の配管が壊れて暖房は灯油ストーブ(アイリス 本田剛施設長)

冷温水器の配管が壊れて暖房は灯油ストーブ(アイリス 本田剛施設長)

職員減少の中での遭遇

 特養「ますほの里」(志賀町、定員60人)は単独施設で、もともと介護職の確保が難しく、昨春から50人定員で運営していた。昨夏には職員の離職が重なり、定員40人で運営。そうした状況で、今回の被災があった。エレベーターは動いていたので、2、3階の入居者各20人を車いすで3階に移動してもらい、その後ベッドを上げた。余震のたびに安全弁がかかり電気が止まり、対応に追われた。1月17日には介護職23人全員が出勤できた。
生活相談員でケアマネの喜佐和郁さん(左)と管理栄養士の橋本奈美さん

生活相談員でケアマネの喜佐和郁さん(左)と管理栄養士の橋本奈美さん

 6カ所あるトイレは、2カ所に集約して使った。褥瘡の対応でDMATが入り、水を使わないポータブルトイレ「ラップポン」が提供されて活用されている。1月21日には訪問入浴車が3台来てサービスを受けた。フレイルが課題で、歩いていた人が歩けなくなっている。2月中旬からは配食サービスを受けるめどが付いたという。
給水車からの汲み置きが玄関に(特養ますほの里)

給水車からの汲み置きが玄関に(特養ますほの里)

「今後、事業所としての生き残りが課題に」

 「断水解消は4月以降になる見通しと聞く」と、「さはらファミリークリニック」(七尾市)の居宅介護支援事業所のケアマネジャー・早田真紀子さん。発災直後、1月2日、3日でほぼ安否確認ができた。保健師のロール作戦で得られた地域の状況把握が役立った。法人の佐原博之理事長は日本医師会の常任理事で、地域のケアマネ協会の役員も担い、ケアマネジャーの活動をしっかり見守っている。

 患者用に仮設トイレが置かれたが、スタッフは洋式トイレに携帯トイレをかぶせたり、おむつを切ってその吸収剤で尿を処理した。水がなく送迎も難しいので、多くのデイサービスが休止している。ケアマネジャーとして、奥能登から避難してきた人の対応に追われた。能登中島にある特養と老健では入居者は全員が金沢へ避難した。200人あった当居宅介護事業所の利用者の3分の1も金沢などへ避難。そのサービス調整にあたった。半数の人たちは家に住めない状況で、生活の土台が失われている。フレイル対策で訪問リハビリの活用を進めている。福祉用具貸与事業所は、震災で使えなくなった用具は請求を止めているという。一方、七尾では1月いっぱいで閉鎖する避難所もでてきた。
早田真紀子さん (県ケアマネ協会 中能登支部長)

早田真紀子さん (県ケアマネ協会 中能登支部長)

 早田さんは、「今後、多くの事業所で生き残りが大きな課題になる。要介護者や介護職双方がここから去っている。特に通所系の経営が厳しい」と話した。

 元旦に亡くなった利用者がいた。早田さんは車を走らせお顔を見て手を合わせた。その後、震災。大津波警報が出て、ご家族は逃げたが、気がつくと父の姿がない。妻を守ろうと、なぎがらに覆い被さっていたと聞いた。
(シルバー産業新聞2024年2月10日号)

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