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大切な姿勢保持 ~脳性マヒの事例を通して~

東洋大学 ライフデザイン学部人間環境デザイン学科教授

繁成 剛氏

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 私たちの日常生活の様々な活動は座位や立位などの姿勢を保つことで成り立っています。身体や運動機能等の障がいによって姿勢が不安定な人に、安定した座位を提供することができれば、その人のADLの自立度が上がり、QOLの向上にも繋がります。

 姿勢が崩れてしまう原因は様々ですが、筋力の低下、骨や関節の変形、原始反射の残存、異常な筋緊張、神経の麻痺、大脳や中脳の疾患、感覚器官の異常、内部疾患などが考えられます。そのほか、座り心地が悪かったり身体に合っていないいすに座れば姿勢が崩れやすくなります。健康な人でも同じ姿勢を30分以上保ち続けることは苦痛です。15分以上経つと誰でも無意識のうちに足を組んだり座りなおしたりして姿勢を変えているはずです。自力で姿勢変換ができない場合は、体圧が坐骨や仙骨の周辺に集中して褥瘡の危険性が高まります。ALS、筋ジストロフィー、頸髄損傷などの重度障がいがある人に対しては介護者が頻繁に姿勢変換をしなければいけません。車いすに座っている場合は、ティルト・リクライニング機構や褥瘡予防用のクッションを活用します。

 正しい姿勢保持ができた場合のメリットは何でしょうか。まず正しい姿勢保持とは座位や立位などの姿勢が安定しているだけでなく、食事やパソコン操作あるいは歩行などの動作がしやすいように、体幹・四肢・頭部が自由に動かせることだと言えるでしょう。

 では安定した姿勢と効率的な動作を実現するためにはどうしたらよいでしょうか。ポイントは骨盤にあると考えます。座位は特に骨盤の傾斜によって上半身の姿勢が決まります。いすに座って骨盤が後傾していると背中が丸くなり、前傾すると脊柱は伸展します。立位での骨盤の角度(AP角)は30度ほど前傾していますが、座位でもこの角度に近づけると背中を伸ばしやすくなります。骨盤が後傾すると腰椎の前弯カーブが減少し、胸椎の後弯が大きくなって頭を上げにくくなり、内臓が圧迫されて呼吸が浅くなります。できるだけ頭部が楽にまっすぐ正面を向くように、座面と背もたれの角度と形状を調整することがシーティングの基本です。正面から見たときの頭部と両肩と骨盤が水平に保っていることも重要な姿勢チェックのポイントです。脊柱に側弯がある場合は、骨盤と両肩が傾いているのはやむを得ない場合もありますが、できるだけ体圧が片方の坐骨に集中しないようにシートクッションとバックサポートの形状を調整する必要があります。左右の形状が調整でき体圧分散機能の高いシートクッション、3次元の張り調整機能がついたバックサポートが変形の強い人や姿勢が崩れやすい人に有効です。

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 次に60代の脳性麻痺の女性に身体や生活習慣に合ったいすを製作して姿勢が改善した例を紹介したいと思います。Tさんは自宅で市販の座いすとコタツを使って食事をしていましたが、いすが壊れて後ろに倒れたことがあり、今は割座(トンビ座り)で生活しています。割座は膝や股関節に負担がかかるので、床上でサドルに跨って座るいすをデザインしました。骨盤が安定する形状にウレタンフォームを削ってサドルを成形し、骨盤の後方と背中の形状に合わせてバックサポートを製作しました。リハビリテーションを担当しているPTに立ちあっていただき、ご本人の要望や座った時の反応を基にウレタンフォームを削って修正し、仮合わせしました。これまでの割座では側弯があるため左肩が下がり、円背になった姿勢でしたが、修正したいすに座ると脊柱が楽に伸展し、両肩も左右対称になり、本人も楽に座れると喜んでいました(写真)。近いうちに合皮レザーを張って仕上げ、Tさんに納品する予定です。

プロフィール

1979年九州芸術工科大学大学院を卒業し、北九州市立総合療育センターでリハ工学技士として勤務などを経て、01年近畿福祉大教授、07年より現職。一般社団法人日本リハビリテーション工学協会会長、著書は小児から高齢者までの姿勢保持(医学書院)、車椅子・シーティングの理論と実践(はる書房)など(いずれも共著)

  • 福祉住環境コーディネーター検定試験
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