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遠望
遠望177 ブルネイに侍、ラケットで外交拓く2015年1月20日15時42分

 「王女様とのダブルスがあるので、わたしはここで失礼します」「このホテルの体育館でやっています、よかったら見にきてください」

 王女様?ダブルス?ホテルに体育館?気がつくと、言葉の主はすでに消えていた。

 会食を前に消えたのは、在ブルネイ日本大使館に勤務する大河内博さん。経済産業省出身の仁坂吉伸大使(現和歌山県知事)の駐在に合わせて経済省から赴任していた。慣れない仕事を、無事に務めているだろうか。

 耳に残る言葉をたよりに体育館を探した。世界に2つだけという7つ星のホテルのうちの1つ。それで体育館まであるわけか、テニスでもしているのか。

 天井が高く、貸切でしていたのはバドミントン。そこには本当に王女さま、大河内さんは王女さまとペアだった。

 現地では駐在者は第一線の戦力だ。外交官や企業の駐在員がその役目をする。それをちゃんとできるには、情報把握や交渉力、無理を押せる力が要る。

 要は現地にどれだけ「食い込んで」いるかである。

 さらに、ブルネイは王政であり、仕事では階級や人の縁を重んじる。それゆえ現地の人とのつながりは一層大きい鍵になる。

 冒頭の話は2010年5月にブルネイを訪ねたときのこと。筆者は経済省にいて、大臣の名代として化学プラントの完成式に出席した。

 プラントでは現地に豊富にある天然ガスから化学品をつくる。資源のまま輸出するより産業が高度化する。日本の商社や素材企業が投資し、日本政府が応援した。

 式典は各国大使が参列、同国のボルキア国王が起動ボタンを押すという盛大なものだった。

 訪問中には、別件で先方の大臣を訪ねる機会もあった。日本とブルネイのあいだには、天然ガスの輸入のほか、生物多様性などの案件もある。

 会談には1時間余も割いていただいた。話題を用意していった(大河内さんと一緒に考えた)こともあるが、信任厚い大河内さんの顔を立てたのだろう。

 ところで現地に「食い込む」ことは、現地の文化、価値観、心情を深く理解することだ。理解するには、入り込んで行動をともにする必要がある。

 ときどき出入りして、では済まない。行事にいつも加わり、時には役割も担う。そうして初めて気持ちが通じる。

 そうすると時に、本国や親元(日本や本社)の慣習と合わないことも生じる。

 例えば冒頭の会食。化学プラントは大河内さんが担ってきた仕事であり、訪問団到着後の最初の会食は商社会長、素材企業社長がいる晴れの場だ。

 「内向き」の人なら会食への出席を選ぶ。そうするとその場は円滑だし親元へも報告できる。一方、その分、現地への「食い込み」は犠牲になる。

 これは、日々の時間のかけ方にも通じる。それが巡り巡っていざというときに浅い手しか打てないことになる。

 現場で感じた良い方向をもっと追求したい、それが組織のためになると確信がある、ただ、親元の慣習とは合わない。

 周りの目に抗するにはエネルギーが要るし、やり切る自信もない。不首尾の際のリスクもこわい。

 で、諦め、ほどほどにやる。できれば突っ込んで見たかったと悔いを残しつつ。組織人なら経験することではないか。

 では、現場感覚でよいと思うことを「やり切る」とどうなるか。それが大河内さんだ。得意のバドミントンを活かして関係を築いた。

 国も産業界も、国際市場への展開を唱える。本気でやるなら、踏み込み、入り込み、食い込む人の背中を押す必要があるのではないか。

 大河内さんの体験が本になった(大河内博「ブルネイでバドミントンばかりしていたら、なぜか王様と知り合いになった。」(2014年11月、集英社インターナショナル)。

 柔らかく温かい文章が「どう感じたか、なぜそうしたか」を語りかける。職場で、家で、痛い目にも合う。へこみながらもへこたれない。王女さまとのダブルスに深い意味があったことも分かる。

 大河内さんは昨年、一旦戻った経済省を辞めてブルネイに移った。ラケット1本、ウデ1本の勝負だ。

 その後も「日ブルネイ国交樹立30周年記念硬貨」発行を提案して日本の造幣局が受注するなど、活躍を広げている。

 結果は尖っているが、疑問は素朴、行動は率直、当たり前の積み重ねを止めないだけ。我々の夢ものせて挑戦は続く。

日本福祉大学客員教授

後藤芳一

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