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【インタビュー】上野千鶴子さん 「介護の日」によせて (介護の日しんぶん2018)2019年7月11日00時00分

 

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 ジェンダー研究の第一人者として知られる社会学者の上野千鶴子さん。著書「おひとりさまの老後」は75万部を超すベストセラーとなり、高齢単身女性のイメージを否定的なものから肯定的なものに変え、日本中におひとりさまブームを巻き起こしました。その後も、医療・介護現場の取材を精力的に重ね、一人暮らしの知識やノウハウを蓄積してきた上野さんに、「おひとりさま」で最期まで暮らし続けるコツなどを伺いました。

 

 

「おひとりさま」の準備を

 

 ――2007年に出版された著書『おひとりさまの老後』がベストセラーとなりました。

 「高齢者になると、お一人ではおさみしいでしょう」という言葉に対して、「大きなお世話です」と言うために書いた本が、たくさんの人から支持されました。

 当時は人口学的少数派だった非婚の単身女性、いわゆる「負け犬おひとりさま」向けに書いたのですが、その後、離別・死別を含めておひとりさまの数は急激に増えました。

 国立社会保障・人口問題研究所の将来推計では、東京オリンピックが開催される2020年には、世帯主が65歳以上の単身世帯は33・3%と、3世帯に1世帯の割合となる計算です。これに夫婦のみ世帯の32・5%を加えると、合計で65・8%となりますが、夫婦世帯は死別すれば単身世帯予備軍ですので、おひとりさまは今後、ますます増えていくでしょう。

 こうした変化が起きることは予測していましたが、そのスピードは私の予測をはるかに超えていました。人口学的少数派のための本が、あっという間に多数派のものになってしまったという感覚です。これからの時代は結婚した人も、結婚しなかった人も、女性は長生きすればみんな最後はおひとりさまになると覚悟しておいたほうがよいでしょう。

 ――おひとりさまが当たり前となる時代で、自宅で最期まで暮らすための本も書かれています。

 「自宅で最期を迎えたい」と考える高齢者はおよそ8割います。ですが、実際に自宅で亡くなる方は13%にとどまっています(グラフ)。

 その一番の理由は家族への配慮です。心では「自宅で最期を迎えたい」と思っていても、「家族に負担をかけたくない」との思いや、離れて住んでいる家族が「一人で置いておけないから」との思いで、多くの人が病院や施設を選ばされているのです。

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 では、自宅で最期までいられないかと言えば、そんなことはありません。2000年に介護保険ができたことで、おひとりさまでも大丈夫と言えるほど、介護サービスのインフラが整ってきました。今では24時間ヘルパーや看護師が家に来てくれる「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」(以下、定期巡回)と呼ばれるサービスまであります。

 また、14年6月18日に国会で医療・介護一括法が成立し、長期入院を抑制するなど、政府としても在宅誘導へとはっきりと舵を切りました。「ほぼ在宅、ときどき入院」と呼ばれる状態を、政府としては目指しています。

 こうした時代の中で、「自宅で看取りまで」を希望する場合は、何よりも「本人の強い意思」が必要になります。

 ――本人の強い意思のほかに、どんなことが必要になりますか。

 自分の住んでいる地域に利用可能な医療・看護・介護の資源がなければ、その希望は叶いません。ですので、まずは情報を集めましょう。

 自分の住んでいる地域に往診してくれる医師はいるか、24時間対応の訪問看護ステーションはあるか、そして同居家族がいない場合に何よりも重要になるのが、日々の暮らしを支えてくれる24時間対応の訪問介護の存在です。大手の介護事業者の中には、介護保険の定期巡回サービスに加え、配食や家事支援までをセットにした24時間365日のパッケージサービスを提供するところもあります。

 こうした24時間対応の①訪問介護②訪問看護③訪問診療――の3点セットが地域にあれば、おひとりさまでも家で暮らし続けることは可能です。さらに訪問薬剤管理や訪問歯科診療、訪問リハビリテーションなどの多職種連携があれば、もっとよいでしょう。

 ――自宅での看取りを希望した場合に、どの程度の費用がかかるのでしょうか。

 介護保険では要介護度によって使える金額の上限が決まっており、自己負担として支払うのは、その金額の1割~3割となっています。例えば、要介護5の場合だと36万650円(1単位10円で計算)ですので、1割負担の場合だと約3万6000円となります(下表)。

 先ほどの定期巡回サービスは、定額で月額2万9441円(訪問看護一体型、要介護5の場合)ですので、介護保険の限度額の範囲内で利用することができます。もちろん、自己負担を覚悟すれば、限度額を超える介護サービスを、介護保険外サービスとして利用することもできます。

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 医療保険の自己負担額の上限は、所得によって分かれます。この8月から見直しが行われていますが、70歳以上の場合は、低所得世帯は8000円、一般世帯の人は月1万8000円、現役並み世帯は約8万円、約17万円、約25万円の5段階になっています(下表)。

 在宅医療を実践する専門家の話では、独居の高齢者の場合であっても、公的保険の枠内を超えない範囲で在宅の看取りを行うことが十分に可能になってきたということです。現場の経験値が上がってきたのですね。

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介護保険ができたことで社会インフラが整った

 

 ――本人の強い意思と地域の資源があれば、制度的にはおひとりさまでも公的保険の枠内で「自宅で最期まで」が可能なのですね。

 その通りですが、もう一つ大事なものがあります。わたしが「司令塔」と呼ぶ、専門家チームを束ねて意思決定を行うキーパーソンの存在です。

 本人が直接、専門職に対して意思決定を行えればよいのですが、多くの場合は、その司令塔役を家族が担っています。司令塔役は、介護保険制度の使い方に長けた制度リテラシーの高い人が理想なのですが、いまの介護保険は制度改正を重ね、プロでも持て余してしまう程に複雑になっています。ですので、家族が司令塔役を担うのには限界があります。一般的には、ケアマネジャーがその役割を担っている場合が多いのですが、本人と家族の利害が対立した場合に、どちらのニーズを優先したら良いのか、ジレンマを抱えながら仕事をしているケアマネジャーも少なくはありません。

 さらに在宅で看取りまで行う場合は、終末期医療の話が関わってくるため、医療に精通した人でないと十分な役割を果たすことができません。おひとりさまが安心して最期まで暮らせるようにするには、本人の意思決定を尊重し、誰に対してもきちんとものが言える司令塔役の育成が課題です。

 ――地域の資源がなかったり、キーパーソンがいない地域もあるのではないでしょうか。

 確かに地域に医療・看護・介護資源があるかどうかや、司令塔となるキーパーソンがいるかどうかについては、地域格差が存在します。どこに住むかによって、「自宅で最期まで」いけるかどうかの選択肢は変わってきます。

 私のようなおひとりさまだと、地域資源が充実している地域に引っ越せば済みますが、家族がいる人はそうはいきません。そうなると、自分の住んでいる地域に、医療・看護・介護の資源をつくりだすほかありません。そこは自治体の姿勢がとても大事です。

 例えば、長野県の佐久総合病院では地域ケア科というのがあって、病院の勤務医がフットワーク良く往診に来てくれる仕組みがあります。また、新潟県長岡市にある高齢者総合ケアセンター「こぶし園」では、在宅サービスや配食サービスの拠点となる「サポートセンター」を市内に設置し、施設に入所している人を地域に戻す取り組みを行っています。こうした思いを持った医療法人や社会福祉法人、株式会社などを自治体が呼び込んだり、バックアップしたりすればいいのです。それによって、地域があっという間に変わることだってあるのです。

 ――住み慣れた家や地域で最期まで暮らし続けられるよう、全国の自治体で「地域包括ケア」の実現にむけたシステムづくりが行われています。より良いものにしていくには、住民が主体的に関わっていく姿勢が大事ですね。本日はどうもありがとうございました。

 

(うえの・ちづこ)

1948年富山県生まれ。社会学者。東京大学名誉教授。認定NPO 法人ウィメンズアクショネットワーク( WAN)理事長。日本における女性学・ジェンダー研究のパイオニア。近年、介護とケアの分に研究領域を拡大している。主な著書に「おひとりさまの老後」(法研)、「男おひとりさま道」(法研)、「おひとりさまの最期」(朝日新聞出版)「上野千鶴子が聞く 小笠原先生、ひとりで家で死ねますか?」(朝日新聞出版)など多数。

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