小濱道博の攻略!2015年介護報酬改定(特養)

 特別養護老人ホームは、今回の制度改正および介護報酬改定において最も影響を受けたサービスの一つです。制度改正においては、要介護3以上の入居制限が設けられました。それに続く介護報酬改定において、基本報酬は、通常型で▲6%、ユニット型で5%の減額となりました。100床の施設では年間で1500万円前後の減収です。

Ⅰ 今回の改正のポイント

 特別養護老人ホームは、今回の制度改正および介護報酬改定において最も影響を受けたサービスの一つです。制度改正においては、要介護3以上の入居制限が設けられました。それに続く介護報酬改定において、基本報酬は、通常型で▲6%、ユニット型で5%の減額となりました。100床の施設では年間で1500万円前後の減収です。

 さらに2015年8月より多床室の居住費を介護給付から外されました。1日当たり470円、一月1万4000円弱の自己負担が発生します。ただし低所得者にあっては補足給付の対象となるため負担増にはなりません。補足給付の改正で負担限度額の判定に世帯分離が認められなくなり、夫婦の所得が合算して判定されるため、該当する入所者はホテルコスト(居住費、食費)の負担が月額5万円前後アップすることになります。2016年8月からはⅡおよびⅢ区分の判定に障害年金や遺族年金の収入が勘案されるためその影響は続きます。

 主な加算関連では、日常生活継続支援加算が、従来の23単位から、Ⅰ(通常型)は1日につき36単位、Ⅱ(ユニット型)は1日につき46単位と大きくアップとなりました。看取り介護加算は、看取り後の「振り返りのための会議」等を開催することを要件に追加して、死亡日以前4日以上30日以下の報酬が1日144単位とアップしました。口腔機能維持加算、口腔機能向上加算については別の機会に触れます。

Ⅱ 特別養護老人ホームは実質的に要介護4以上の施設へ

 100床の施設では年間で1500万円前後の減収となったことは先に述べました。当然、加算算定などで減収部分を補填することが求められます。日常生活継続支援加算は従来から算定すべき加算の一つですが、報酬単位が大きくアップしたことで経営の安定化のためには必須の加算となりました。問題は、その算定要件の変更内容です。これまでの算定要件は、新規入居者のうち、要介護3以上の入居を評価する加算でした。

 その結果、特別養護老人ホームの入居者構成は平均で要介護3以上の入居者が90%近くを占めるようになりました。今回の制度改正で特別養護老人ホームの入居者が要介護3以上とされたため、従来の算定要件では100%該当することになります。そのため、今回の報酬改定で算定要件は要介護4以上の新規入居者が70%以上という要件に改められたのです。他の2つの算定要件も選択可能ですが、継続安定的にこの加算を算定するためには、この要介護4以上の算定要件を選択する施設が大部分となります。

 結果として、特別養護老人ホームの入居審査委員会のなかで新規入居者の選択は要介護4以上が優先されることに繋がります。すなわち、実質的に特別養護老人ホームは要介護4以上の施設となることを意味します。すでに入居している要介護1以上の入居者への影響はありません。しかし、要介護3以下の新規入居申込者が特別養護老人ホームに入居できる確率は大きく減少します。今後は、要介護3では、5人に一人程度の割合でしか入居が出来ません。待てど暮らせど入居の順番は回ってこない時代に向かいます。

Ⅲ 実質的に要介護4以上の施設となることの影響

 実質的に特別養護老人ホームが要介護4以上の施設となることで、他の介護保険サービスや高齢者住宅、シルバー産業業界への影響は非常に大きなものがあります。訪問サービス、通所サービスなど在宅サービスの利用者は要介護1〜2の軽度者が占める割合が60%を超えています。高齢者住宅の新規入所者も軽度者中心です。小規模多機能型居宅介護は軽度者が多いことでなかなか経営が安定しない状態の事業所が多い問題を抱えています。それらの原因は共通で、要介護3以上になると特養施設に入所する割合が高まることから、在宅で暮らす要介護者は軽度者が多く、必然的に在宅サービスの利用者は要介護1〜2の軽度者が占めることになります。

 ところが、先に触れたように特別養護老人ホームの新規入居者が実質的に要介護4以上となることから、この市場原理が大きく変わります。すなわち、在宅で暮らす要介護者は要介護3までが中心となるのです。これによって、訪問サービス、通所サービス、高齢者住宅のビジネスモデルも変化が求められます。如何に在宅で暮らすようになる要介護3の利用者を拡大していくかが大きな成功要因になります。

Ⅳ これからの特別養護老人ホーム経営の方向性

 特別養護老人ホームの運営母体である社会福祉法人制度も大きく変貌します。今年度から会計基準も新基準に全面移行します。特別養護老人ホームの競合先として、高齢者住宅、特に医療法人が運営する医療介護連携型といわれる医療介護に手厚いサービス付き高齢者向け住宅がクローズアップされてきました。介護保険制度での自己負担2割化や多床室の自己負担化、補足給付の見直しの影響で入居者の負担金額の差が縮まってきたことが大きいといえます。さらに措置時代から運営する施設においては設備の経年劣化もあり、改修や建て替えの時期を迎える施設も少なくありません。特養には待機者が多いから入所者の確保には困らないという時代は終焉していくでしょう。特別養護老人ホームには加算の算定や一層の経営の効率化など先を見据えた安定経営が求められています。
特別養護老人ホームの2015年改定概要はこちら

小濱道博(こはま・みちひろ)
小濱介護経営事務所代表、日本介護経営研究協会専務理事、C-MAS介護事業経営研究会顧問
介護経営をテーマに講演やコンサルタントなど数多くの実績をもつ。近著「まるわかり!2015年度介護保険制度改正のすべて」(日本医療企画)など著書多数

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