小濱道博の攻略!2015年介護報酬改定(2018年介護保険制度と介護報酬改定の方向性)

小濱道博の攻略!2015年介護報酬改定(2018年介護保険制度と介護報酬改定の方向性)

 消費税増税の期日が、2019年10月まで2年半再延期されたことで、社会保障財源となるべき税収入が今後2年半の期間は見込めなくなった。今後はさらに介護保険制度の重点化の加速、介護報酬の効率化の促進が加速すると考えられる。

1,消費税増税の再延期

 消費税増税の期日が、2019年10月まで2年半再延期されたことで、社会保障財源となるべき税収入が今後2年半の期間は見込めなくなった。今後はさらに介護保険制度の重点化の加速、介護報酬の効率化の促進が加速すると考えられる。この延期によって、18年度介護保険法改正と介護報酬改定、さらには診療報酬改定のトリプル改正への影響が懸念される。特に、介護報酬と診療報酬の同時改定の年は、医療と介護で限られた予算を取り合う形と成り、介護報酬にとって不利な改定となる事が今までの慣例である。18年の介護報酬改定は良くても横ばい、昨年同様に実質的にマイナス改定となると予想する。それに加えて、今回の消費税増税の延期である。英国のEU離脱が経済に与える影響は未知数だが、景気が悪化した場合はさらに税収が落ち込むため、予算はさらに厳冬となる。これは厳しい。

 現在の社会保障審議会介護保険部会での議論は、訪問介護の生活援助や福祉用具貸与などに見られるように、要介護1〜2の軽度者を介護給付から切り離して介護保険外とするための議論に移っている。介護予防給付に残った予防訪問看護などは、総合事業への早期の完全移行も視野に入っている。

 2018年4月からは居宅介護支援事業所の指定権限が都道府県から市町村に移行され、実地指導も市町村が実施する。居宅介護支援の自己負担1割の導入を含めて、今後はケアマネジャーにとって、大変革が起きる可能性が高い。介護事業では、自己負担2割の対象者の拡大によって利用控えも加速する。結果的に、利用者一人あたりのサービス提供量が減少するために、利用者数の拡大が急務となる

2,今後の制度改正スケジュール

 2016年2月17日から社会保障審議会介護保険部会がスタートした。いよいよ18年度の介護保険法改正の審議が始まった。今後、介護保険部会での審議を重ねて12月までには結論が出される。介護保険部会での結論に基づき、来年の通常国会に改正法案が提出され、たぶん春になるであろう国会での可決確定の後、18年4月から施行される。

 また、12月の介護保険部会の結論を踏まえて、来年より社会保障審議会給付費分科会において介護報酬改定の審議が本格的にスタートする。18年度は、介護保険法の改正、介護報酬改定、さらには診療報酬改定を含めてのトリプル改定である。これまで介護保険法は6年に一度のペースで大きな改正が行われた。しかし前回、15年度改正は前回から3年の間隔での改正となった訳であるが、過去最大規模の大きな改正に関わらず階段の踊り場の中間的な改正であり、本番は2018年である。昨年以上の大改正となり、介護業界の再編成はピークを向かえる。

3,高額介護サービス費

 15年度改正で自己負担割合が全体の20%の高所得者を対象に1割負担から2割負担に引き上げられた。ただし、要介護5の利用者が区分支給限度額を一杯に利用した場合、月の自己負担分の支払いが7万円を超えるかと言うと、3万7200円を支払うことで足りる。これが自己負担額の上限であり、高額介護サービス費と言う。この高額サービス費の見直し、すなわち引き上げが検討される。この引き上げがなされた場合、最も影響を受けるのは重度者の入居が多い介護施設である。

4,利用者負担の在り方

 自己負担割合が2割負担となったのは、全体の20%の高所得者が対象である。そのために高額所得者の多い高級住宅街近郊の事業所は2割負担の利用者が多く、一般住宅街の利用者は少ないという現象が生じている。また、都道府県別では、東京都が最も多く、青森県や秋田県では2割負担の利用者は少ない。現状では、自己負担2割は高齢者の高所得者に限定されていて、事業所や地域においてかなりのバラツキがある。

 今回の制度改正では、この線引きラインの見直し、すなわち引き下げが検討される。現在の5人に一人の対象が、三人に一人、二人に一人の線引きラインとなった場合、一般住宅街の利用者にも影響が拡がり、低所得層が対象となるために利用控えなどの影響も懸念される。デイサービスを週二回利用して月に1万円を支払っていた利用者が、自己負担が2割になると月の支払は2万円となる。これをいままで通りに、1万円で納めようとすれば、週二回の利用を週一回とすることとなる。この結果、事業所の収入は半減する。この対策としては、利用者を増やすしか方法はない。財務省は74才以下の利用者は一律自己負担2割を主張している。最終的な落とし所を探る議論の中で、今後の厚労省との駆け引きが注目される検討項目である。

5,軽度者の支援の在り方

 1月20日の読売新聞の記事に多くの介護事業者は目を見張った。「介護保険、軽度者サービスを大幅見直し…調理・買い物除外など検討」「2017年度にも実施に移す」。訪問介護サービスは、入浴や排泄を介助する身体介護と、掃除・洗濯・調理などの生活援助に大別される。このうちの要介護1〜2の軽度者を対象に、生活援助サービスを介護給付対象外とすることが検討される。

 元々、生活援助サービスは介護保険制度導入前の措置の時代の名残と言われている。掃除や調理は本来毎日行うものであり、軽度者にとっては自分で出来る範囲と考えられる。過剰介護が取りざたされ、生活援助に対する介護保険の適用に懐疑的な意見も従来からあった。また、自分で出来ることは可能な限り行うという「自助」の考えからも生活援助サービスの見直しは以前から議論されてきた。従来の議論の方向は、軽度者の生活援助は市町村の総合事業に移行してボランティアを中心のサービスに切り替えることである。しかし、2月17日介護保険部会において、厚労省から完全な自己負担とすることも検討することが伝えられた。これが実現した場合、総合事業における生活援助の取り扱いにも影響がでる。いずれにしても、介護給付から切り離されたサービスは1割負担で使えなくなるだけであってニーズは無くならない。新しい介護保険外サービスのマーケットを創造する。ここに「介護保険外サービス活用ガイドブック」の策定の意図が読み取れる。

6,福祉用具貸与、住宅改修

 福祉用具貸与、住宅改修も軽度者を給付対象から外すことが検討されている。この方向では、福祉用具貸与、住宅改修は要介護3以上の利用者しか利用できなくなる。福祉用具貸与の改正の具体的な方向としては、①貸与価格の見直しとして標準的な利用料を基準貸与価格として設定する(住宅改修についても、工事実勢価格等をベースに同様の仕組みとする)。②利用者の状況・要介護区分毎に標準的な貸与対象品目を決定して、その範囲内で貸与品を選定する仕組みを導入する。 ③原則自己負担(一部補助)として、軽度者の福祉用具貸与に係る保険給付の割合を大幅に引き下げる――の3点を起点として今後の議論がなされていく。いずれにしても非常に厳しい方向性である事に間違いは無い。以前から問題視されている価格のバラツキや極端な外れ値にメスが入ることとなる。

7,総報酬割

 現在は、年収や資産に関わらず40才以上の国民が負担する介護保険料の負担は一律の金額が給与などから差し引かれている。これを、加入する保険組合などの資産状況を反映して、介護保険料の負担金額に差額を持たせるのが総報酬割である。総報酬割が導入されると、赤字体質の国民保険加入者などは負担が低くなり、黒字体質の大企業などが独自に運営する企業保険加入者の負担が高くなることが想定される。

8,その他の検討項目

 地域包括ケアシステムの推進の関連で、要介護認定の方法、ケアマネジメントの見直し、医療介護連携の関連項目、総合事業に移行する予防サービスの範囲の拡大、人材確保などが検討されていくと考えられる。また近い将来を見据えて、要介護1〜2の軽度者を介護保険の対象から総合事業に移行する時期の検討も進むと考えられる。これらの審議が本格化するのは夏の総選挙が終了する7月以降である。余りにも国民の負担を強いる介護保険法改正となるため、総選挙の焦点になることを懸念することが理由であろう。それほどの大改正が間近に迫っている。早期に情報を収集して対策を講じることが重要となる。

9、次期介護報酬改定審議の方向性

 16年度診療報酬改定において、慢性期リハ病床にアウトカム評価が導入されたことで、次期介護報酬改定においても何らかの形でアウトカム評価が導入されることは避けられない。アウトカム評価の導入としては、一定期間で目標達成などの結果を出すことで加算などが算定可能。達成出来なかった場合は報酬が減額される仕組みなどが考えられる。もしくは、一年間に認定更新を受けた利用者の内、何パーセント以上の利用者の介護度が改善された場合、加算を算定出来るなどの適用である。すなわち、介護サービスの質の評価である。今後は、老健やデイケアにおけるリハビリテーション。デイサービスの機能訓練等に率先して導入されていくと思われる。昨年の介護報酬改定で新設された生活行為向上リハビリテーション実施加算や社会参加支援加算の算定を検討すべきで有り、リハビリテーションマネジメント加算Ⅱの算定は最低限として必須となると考える。

 ケアマネジメントでは、特定事業所集中減算が見直される。これは今年3月に会計検査院からの指導によって、ケアマネジャー同士の利用者の交換などで減算を免れたり、減算を受けることで100%の利用者を関係先に位置づけている居宅介護支援事業所が見受けられるとの指摘に対する見直しである。この部分への厳格化が第一に考えられる。また、過去の報酬改定から継続審議となっている、ケアプランに位置づける介護サービスが少ない場合の減算規定や囲い込み防止措置が導入される可能性も高い。

 軽度者の介護保険外への移行の議論と相まって、中重度者対応や認知症対応の加算などが、さらに充実すると考えられる。中重度者対応や認知症対応は、介護事業者にとって急務となってきた。中重度者へのシフトと相まって、介護職員の医療行為への対応も求められる。また、看取りへの対応も施設系から在宅系サービスに拡大していくと思われる。

 現時点における最大の関心事の一つに介護職員処遇改善加算の継続の有無がある。介護職員処遇改善加算は3年限定での設置であるので、いつ外されても不思議では無い。しかし、さらに介護職員一人あたり1万円をアップさせる案も検討されている。介護職員処遇改善加算は存続するのか。介護離職ゼロ政策の今後の動向などによって存続の可否が出されると思われる。

10、今後の業界再編成に向けて

 文中でも触れたように、消費税の増税が延期されたことで、重点化や効率化による社会保障制度全体の引き締めが加速することは避けられない。中重度者への対応や認知症対応の強化は、介護事業者にとって急務となってきた。同時に、介護職員の医療行為への対応も求められる。さらに看取りへの対応のニーズも施設系から在宅系サービスに拡大していくであろう。介護保険外サービスへの参入も急務である。中規模以上の事業所にとっては特に、この分野での対応の遅れは、致命的になる可能性が高い。

 小規模な事業者は一層の企業努力が求められ、経費のスリム化、人件費率の見直しに着手する以外、収益改善の方法が無い状態に追い込まれる。一部では廃業や統廃合も進んでいく。介護保険制度にだけ頼っていては、経営の安定化は難しい時代となった。利用者を増やし続け、事業規模の拡大策を早急に取ると共に、介護保険外サービスをもう一つの経営の柱とするなど、介護保険に依存しない体制作りが急務である。 

 最後にダーウィンの進化論の言葉を持って、今回の連載の締めとする。

最も強い者が生き残るのではなく、

最も賢い者が生き延びるのでもない。

唯一生き残るのは、変化できる者である。

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