連載《プリズム》

プラス改定は二重丸

プラス改定は二重丸

 人件費率の高い仕事は、人件費が上がれば事業収益は下がり、人件費が下がれば事業収益は上がる。医療や介護分野はそうした収益構造にある。介護職員処遇改善加算という仕組みは、加算としていったんは事業収入に入るが、その全額が介護職員の給与に充てられるため、実質は事業支出である。(プリズム2018年2月)

 事業主に代わって、強制的に介護職の給与アップを行うのが処遇改善加算ということになる。かろうじて介護職員の誰にいくら上げるかの配分は事業主の専権になっている。

 事業のあり方をいびつにする処遇改善加算の存在の背景には、介護人材の深刻な不足がある。要介護者数の増加に伴って増えてきた介護職員数だが、近年の伸びは介護福祉士の増加によって支えられてきた。これが450時間の研修や国家試験合格の義務づけによって、国家試験の受験者数や養成校入学者数が激減する結果になった。介護分野の人材のすそ野をボランティアまで広げる一方で、介護福祉士をリーダーとする介護の専門性向上を図ろうとすると、避けざるを得ない道筋とされる。

 読売新聞によると、15年度補正予算で計上した地域医療介護総合確保基金は、17年度までに使われるのは16%程度に止まる。特養も老健も、新設の公募に手を上げる事業者が減っているのだ。箱は造っても働き手を確保することができない。19年10月に予定する消費税率10%引上げ時に、「10年勤続の介護福祉士に8万円の給与上乗せ」という政府が掲げた「政策パッケージ」は、有効求人倍率の一層の上昇が予測される中で、それは唐突ではなく、悲痛な叫びと言える。介護人材の不足は、いまや介護保険のサービス基盤の根底を揺るがしている。

 ただ、18年改定に処遇改善加算の上乗せはなかった。17年4月に前倒しで、月1万円の処遇改善があったからだ。トレードオフの関係にある事業収益の悪化への対応を重視した結果とも言える。その一方で、保険料アップや利用者負担増に直結する報酬引上げ。三すくみの介護保険にあって、18年の改定率0.54%は二重丸と言えるのだろう。
(シルバー産業新聞2018年2月10日号)

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