連載《プリズム》

元も子もない在宅介護切り

元も子もない在宅介護切り

 介護にまつわる哀しく切ない事件が後を絶たない。どうして防げなかったのか。(プリズム2016年3月)

 児童虐待のニュースであれば、児童相談所の対応や学校のあり方など支援者の対処を問う続報もあり、背景にある社会の関心が感じられる。しかし、老老介護の果ての事件では社会面の片隅に行の記事が載るばかり。いまは交通事故のように日々の社会の現象になっているのか。

 これまで私たちはいち早く英知を結集して、介護保険制度という高齢者介護に特化した社会保険システムを構築してきた。それでも、介護の問題は底深く、人の業がぶつかり合う。わずかなほころびから様々な事件や問題が引き起こされる。介護には社会や地域の見守りが欠かせない。

 18年改正へ向けた議論が始まった。介護保険制度を財政的理由で崩壊させてはいけない。2月17日神戸で開かれた軽度者の給付制限提言の集会で、本紙連載の服部万里子さんは、「軽度者の給付抑制は、在宅介護切り」と看破した。住み慣れた自宅や地域で住みつづけるための地域包括ケアシステムの構築そのものが雲散霧消するならば、月々の高額な介護保険料を支払う理由がなくなる。

 最高裁は3月1日、認知症家族への損害賠償裁判で、介護する配偶者や子どもに当然には監督義務はないという画期的な判決を出した。示された判断基準には議論があるかも知れないが、判決文の端々からは、介護の社会化の必要性がにじみ出ているように感じた。

 認知症の人と家族の会は、自分たちが介護で苦労したことから、家族が介護を抱え込んでしまわないようにと、日々の介護の工夫から制度のあり方まで、長年ボランティア活動を続けている。高齢者や障がい者の介護を個人の責任に帰してはならない。そうした思いは、社会保険としての介護保険にも通じている。

 お蔭様で、1996年11月10日創刊の本紙は創刊20年を迎えました。御礼申し上げます。

(シルバー産業新聞2016年3月10日号)

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