未来のケアマネジャー

未来を拓くケアマネジャー/石山麗子(新連載)

未来を拓くケアマネジャー/石山麗子(新連載)

 「ケアマネジャーの資格はなくなるのですか」。私が厚生労働省の介護支援専門官をしていた頃から現在も頻繁に受ける質問だ。結論から言えば私の答えは「NO」である。なぜこの種の不安や疑問の声が後を絶たないのか。複数の理由が考えられるが、今回は次の二つに着眼してみよう。

 まず一つめの理由として公の場でのケアマネジャーに対する指摘や批判があげられる。おそらく始まりは2011年(平成23年度)の社会保障審議会である。ケアマネジャーの資質について多くの「指摘」がなされた。以降ケアマネジャーへの批判は官民問わず、あらゆる場で見られ、その指摘は客観性に乏しく感覚的な意見に基づくものも含まれていた。時にその表現ぶりはケアマネジャーの「否定」ともとれる内容さえある。こんなにも公の場で批判され続ける職種が他にあるだろうか。

 その職種の価値や存在意義は、その職種が「いまこの瞬間に世界から消えたら」何が起きるかである。悲観する必要はない。指摘や批判は『ケアマネジャーへの期待』に置き換えられるからだ。あらゆる方面からの声は、裏を返せば誰もが『ケアマネジャーの役割は、介護保険のキーパーソンである』その重要性を認めている証拠だ。

 肝要なのはケアマネジャーがその声を「指摘や批判」と捉えバネにするか、それとも「否定」と受け止め諦めるか、どちらに捉えるかであり、大きく価値は異なる。私はケアマネジャーがそれらを糧にして未来を拓く底力を持っていると信じている。

 二つ目の理由は、私たちの生活全体に大きな変化をもたらす第四次産業革命といわれるものだ。IoT、ICTの技術は介護分野にも徐々に導入され、AIの研究も進んでいる。表をご覧頂きたい。内閣府の経済財政諮問会議では2020年までの新経済・財政再生計画改革工程表に【ケアマネジメント質の向上】「AIも活用した科学的なケアプランの実用化」を掲げた。2020年には、「実用化に向けた取り組みについて検討し、結果に基づいて必要な措置を講じる」とされている。これによりAIがケアマネジャーに取って代わると思っている方もいるようだ。

 厚生労働省でAIケアプランの研究がスタートしたのは2016年後半のことだ。私は厚生労働省在職中から現在もAIケアプランの研究事業に参画させて頂いている。そこで感じることは、AIの特徴は最初の歩みは遅々としていても学習し始めると早い、ということだ。現時点での研究成果を見て「これじゃ使えない」と思っている方もいるだろうが、指数関数的に成長は早い。それに人間と違ってAIは一度読み込んだケアプランを忘れることなどなく瞬時に複数のケアプランを提示することもできる。更に生身の人間との決定的な違いは人間関係や経営上の忖度をしないことだ。このような側面でAIは力を発揮する。

 一方、AIがもしあなたの職場に明日からやってくるとしたら、あなたはAIが「超」がつくほどの要配慮人材と気づくだろう。多くの人が思う以上にAIは得手不得手の領域の差が激しく、画像診断は得意だが言語分野は不得手である。ケアマネジメントは、利用者や多職種マネジメントといった「人を相手」とする複雑な思考や情緒的分析を要する仕事だ。したがって仮に現場でAIが活用されるとしても、導入初期は極めて限定的な範囲にとどまるだろう。人とAI、それぞれの得意分野を理解した役割分担如何が今後「ケアマネジメントの質」の向上に繋げる鍵になりそうだ。これをうまく活用できればケアマネジャーの信頼度は益々高まっていくだろう。ある意味、今はケアマネジャーにとって未来のケアマネジメントを創成し、チャンスを掴む大分岐点であると考えている。
 石山麗子(国際医療福祉大学大学院教授)

(いしやま・れいこ)東京海上日動ベターライフサービス、シニアケアマネジャーとして、社内140人超のケアマネジャーの育成を担当。2016年より厚生労働省老健局振興課介護支援専門官。2018年4月より現職。

(シルバー産業新聞2019年1月10日号)

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