在宅栄養ケアのすすめ

地域栄養のレベルアップ(3)/中村育子(連載65)

地域栄養のレベルアップ(3)/中村育子(連載65)

 最近、高齢者の健康増進や介護予防で「オーラルフレイル」という言葉を耳にした人も多いと思います。直訳するとオーラル(口腔)+フレイル(虚弱)ですが、噛む力や飲み込む力の衰えは、やがて全身の衰えに影響するという概念であり、警鐘でもあります。

セルフケアで口の中を守る

 噛む力、飲み込む力はつまり「口から食べる力」です。この機能が失われると当然ながら、普段の食事が摂れなくなり、低栄養に陥ることになります。十分な栄養が摂れないと、運動をしても筋力がつかず身体機能が衰え、それがさらに食べる力を低下させる、といった負のスパイラルです。

 では、そもそも食べる力が衰える原因は何でしょうか。加齢による体力の低下も一つですが、高齢になると唾液の分泌量が減るため、口腔内の衛生状態が悪化しやすくなります。その結果虫歯や歯周病、誤嚥のリスクを高めてしまいます。

 まずは、食事前に口の体操を習慣化することをおすすめします。「パ」「タ」「カ」「ラ」の4文字を発声する「パタカラ体操」は有名です(図)。他にも、「ウー」と「イー」の口の形を繰り返す動き、舌を思いっきり外に出す動きも効果的です。どれも単純な動きの繰り返しで、自宅でも簡単に行えるものばかりです。

 また、誤嚥予防の観点から、食べる姿勢も重要します。少し首を回したりほぐす運動なども、取り入れてみましょう。

 ただ、介護サービスを利用していない人の場合、こうしたセルフケアは誰かに教えてもらわないと、なかなか始める機会がありません。そこで大切な役割を担うのが、地域の介護予防教室です。体操(運動)教室や認知症カフェはわりと広く実施されていますが、本来は口腔ケアや栄養指導も充実させなければならない機能です。

 かつ、こうした場に歯科医師や歯科衛生士、言語聴覚士、管理栄養士といった「口の中のスペシャリスト」が関われば、地域での早期介入・予防のしくみにつながっていくことになります。

歯科は治療+予防で活用

 食べる力が衰えるもう一つの大きな原因が、歯の問題です。高齢者の場合、多少の歯痛や、また歯が欠損しても「面倒だから」「思った通りの治療を行ってくれない」などを理由に歯科医院に行かないという人もいます。

 虫歯の治療直後はどうしても噛み合わせに違和感があり、それが不快に感じるのかもしれません。実際、歯科治療後は一時的に食事量が減少する傾向が見られます。なかには、入れ歯がまったく合わない、入れ歯自体を無くしてそのまま、といった人もいます。

 「どこにいるのか分からない」と言われる管理栄養士や言語聴覚士と比べ、歯科医師は身近に相談できる専門職です。ぜひ、定期的な「歯の健康診断」を受けられる「かかりつけ歯科医」を元気なうちから探しておくことをおすすめします。

 その際、歯の治療や入れ歯の調整だけを行うのではなく、いかに全身の健康・予防の視点をもつ歯科と連携できるかがカギです。なぜなら、口腔内に問題がある場合、それが歯の問題なのか、嚥下機能によるものか、栄養状態から来るものかなど、その要因について広く可能性を検討できるからです。

 さらに、こうした専門職は地域の多職種とのつながりも持っています。仮に栄養状態が原因ならば、他機関の管理栄養士にアセスメントを依頼することもできます。「多職種の役割を理解し、自分ひとりで解決しない」というのが地域包括ケアに関わる職種の基本的なスタンスだと考えます。


 中村育子(福岡クリニック)

(シルバー産業新聞2019年6月10日号)

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